あなた方は、わたくしが去ったほうが幸せなんでしょうね。
わたくしも、あなた方の前を去ったほうが幸せに違いありません。
それでも、この生まれ育った街を、この街で暮らす民のそばを、離れてしまうのはとても寂しくて、悔しくて、胸が張り裂けてしまいます。
わたくしはただ、あなた方に一般世論を説いたのです。この世の中の常識を改めてお教えしたのです。
あなた方はそれらをあっさりと覆してしまわれました。今やこの街の民は、あなた方を心から祝福する人々しかおりません。
わたくしの愛した街は、民は、面影だけを残して失われてしまいました。
……あなた、何故顔を歪ませているの? 本当に心の底からわたくしが気に食わないのね。安心なさい、もうしばらくの辛抱でしてよ。
わたくしは、もう何も発言することを許されておりません。だからこれがさいごの言葉。どうかもう少しだけお付き合い願います。
わたくしはね、たとえ姿形が変わろうとね、今までわたくしどもの生活を支えて、この街の発展に尽力された民に感謝しております。
おかげさまでこの街は、世界で一番美しい街と謳われるようになりました。
今は面影しかないけれど、きっと私が信じ愛した民ならば、見違えるように美しくさせるでしょう。
その民のために、わたくしは心から幸を祈ります。
わたくしの愛した民に、神の御加護があらんとこを。
あぁ、もう時間ね。
『幸せに』
3/31/2024, 10:46:21 AM