誕生日に君からもらったマグカップを、うっかり手を滑らせて割ってしまった。スマホで通販サイトを探せば、同じものが売っていて、買えない価格ではないのだが、これはそういう問題ではない。このマグカップは“君が私に贈った唯一のもの”。そこに金銭より大事な価値と意味がある。だからこそ…
私は嘘を吐いた。うっかりではない。私は意図的に、マグカップを投身させたのだ。これの価値と意味諸共に、殺そうとした。そうでもしなければ、失恋から立ち直れない気がしたからだ。しかしながら、私は自身の恋心を甘く見ていた。マグカップとしての機能を失い、私の指を切り裂くだけの破片になってさえ、その価値と意味は、変わらず息をしていた。
3/8/2023, 10:44:37 PM