駒月

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「ハッピーバレンタイン!」

 ここは道のど真ん中。
 吹雪いたくらいに寒くなった。おかしいな?バレンタインって今日だよね?
 などと考えているうちに彼はさりげなく逃げようとしている。

「待って?!まだ何も話してないよね?」

 がっしりと彼の腕を掴んだ。今日はだめ。今日こそは逃さない。だって年に一度の──

「告白なら毎日のようにしているだろう。今日くらいは勘弁してくれ」
「えっ」

 げんなりとした彼が持っている紙袋の中は、たくさんのチョコが詰め込まれていた。仕事帰りだから職場の人から?それにしても数が多い。

「モテすぎて引くんですけどー!」

 彼がカッコイイのはわかる。同担拒否ではないからわかるわかる、という気持ちはある。ちょっと嬉しい。
 でもやっぱりライバルが多いのは不安かも。いや、はじめから相手にされてないけど!すみませんね!

「いい加減手を離さないか?」

 急に黙って俯いた私を不審に思ったのか、彼は突き放さず探るような物言いをする。

「あ……ごめんなさい」

 手を離す。絶対変な女だと思われた。うん、はじめからだけど。
 きっと彼の近くには綺麗でオトナな女の人がいて、私みたいな騒がしいストー…つきまといJKなんか煩わしいよね。と、柄にもなくへこんだ。
 彼が離れていくのをただ見ているしかできない。
 初恋は実らないなんて言うけど、本当にそうなのかもしれない。全然上手くいかなくて、気持ちばかり膨らんで、どうしようもなくて。
 涙が滲んで視界が歪む。

 ──離れていった彼が戻ってきたように見えた。
 なんてひどい幻覚。

「早くしろ」

 ぶっきらぼうな彼の声。幻覚じゃなくて本物だった。片手を差し出し、何かを待っている。

「え?何?何??」
「俺に渡すものがあるんだろう?」
「あ!あっ、あっ、ある!ありますっ!」

 バッグにしまっていたバレンタインのチョコレートを出して彼に手渡す。

「受け取ってくれて、ありがとう。でも、どうして?」
「また泣かれたら困るからな」

 ああ……口ではそう言うけど、優しい人だって知ってる。

「告白はいいのか?」
「好きです!付き合ってください!」
「それはできない」
「えーー!?」

 いつものやりとりに何処か安心する。
 彼の横顔も少し楽しそうに見えたのは──
 幻覚?現実?
 


【バレンタイン】

2/15/2024, 8:50:58 AM