放浪カモメ

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「ちょっとそこまで、付き合ってくれない?」
車の鍵を指でくるくる弄びながら君が気安く言うから、コンビニにでも行くのかと思ってホイホイついて行った自分を叱ってやりたい。

午前二時、自分はなぜか浜辺にいる。たしかに目的地は訊かなかった。昼間の気疲れのせいで即寝落ちした自分に落ち度がなかったとは言えない。

聞こえるのは波が打ち寄せる静かな音、自分の心臓の鼓動、隣の友人のため息。

「また、駄目だったんだよねぇ〜」

「……今年も迎えに来てもらえなかった」

他界した彼女の迎えを盆が来るたびにこいつは待っている。

「待つなら一人で待て。俺を巻き込むんじゃない」

幸せな二人を横に独りの自分はどうすればいいのか、想像しただけで居たたまれない。

「あいつが楽しみにしていた作品の新作、15年ぶりに公開するんだろ?見てから伝えたほうが喜ぶんじゃないか?」

なんとかこいつを繋ぎ止めようとする自分はさぞ滑稽だろう。

/「夜の海」

8/15/2023, 11:20:08 PM