シオン

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「………………はぁ」
 ため息をつきながら部室の扉を開いたが、薫さんはいなかった。今日は始業式ならしいということを聞いたから、きっとHRかなんかでまだ来れてないだけだろうか。
 それにしても、クラスに馴染める気が到底しない。部活選びというのは思ったより重要だったらしく、比較的どんな学校にでもある、例えば野球部、サッカー部、ダンス部なんかが派遣を握っている。普通の学校ではないがしろにされやすい卓球部も、知名度があるという点でクラスカーストの上の方にいやがるのだ。
 反して、特に知名度がなかったり、何をしてるかよく分からん部活に入った人間はクラスカーストでは下の方に落とされやすかった。
 うちのクラスにそういう同士がいないわけではないのだが、そいつらはクラスの友人は諦めて、他クラスにいる部活の友人と絡んでいることが多く、つまりは同級生が部員にいない僕は完全なる詰み状態という訳だった。
「……やっぱり、他の部活入ればよかったかなぁ」
 いくら面白そうに、魅力的に写ったとはいえ、間違いだったのかもしれない。学校生活を円滑に進める一歩目を誤ったな……という思考が脳裏に浮かんだ。
「やれやれ、酷いことを言うんだねキミは」
「……薫さん」
 部室に入ってきた薫さんは若干重そうにスクールバックを持ったまま入ってくると、乱暴に床に投げ捨ててから扉を閉めた。
「ワタシはキミが入ってくれて嬉しかったのに、キミはそれを後悔している。それに関しては異論はないけども、言葉にするものではないよ」
「まぁ……はい」
 聞かれないと思ったというのは流石に言い訳になりえてしまう。大人しく口を噤むことにした。
「だがね……ワタシはキミの退部を止められないこともまた事実。ということで約束をしよう」
「…………約束?」
 薫さんは小指を僕の小指に絡めて言った。
「一ヶ月経っても友達が出来そうになかったら有名どこに入るといい。兼部は許可されてるからね。もちろん入った方の部活がない日に顔を出してくれるだけでいい」
 その言葉は僕にとってはとても甘美な言葉に聞こえた。自分にしか都合の良くない言葉に若干の困惑と期待を持って口を開こうとすれば薫さんは続けた。
「ただし。キミが他の部活に兼部して一週間友達と言える関係が出来なかったら、キミはワタシのところに戻っておいで。わかったね?」
 若干目を細められてそう言われれば頷くことしか出来ず、ゆっくりと首を縦に振ると薫さんは口元に軽い笑みを浮かべた。
「さて、約束ができた。まぁ、まだまだ先の話、言うなれば遠い約束とも言える」
 そう言いながら指を離した薫さんにさっきまでの面影なんてなくて、いつもの雰囲気に戻っていた。
「さて、今日の議題はどうするかい? 『友達を作るには何をしたらいいか?』にするかい?」
「……今日は、ちょっともういっぱいいっぱいです」
「何もしてないのに? 全く、そんなんじゃ困るよ」
 ちょっとテンションがウザくて、議論することは楽しいけど全然そうしか思ってなかったのに。細められた目でこちらを見られた時に不覚にも若干心が跳ねたのは、きっとギャップがあったからってだけなはずなんだ。これは決して、そういう話ではないはずだから。
 心を誤魔化すようにそう思っても、誤魔化しきれない気持ちがそっと頭を持ち上げようとしていた。

第八話 人のギャップでときめくのは正常か?

4/9/2025, 9:53:13 AM