「それでいい」
君とはもう、長い付き合いになるね。
出会った時は大学生だったっけ。君は真面目で、硬派でなかなか僕に落ちてくれなくて、その内僕のプライドは傷ついて、君を諦めようとしたんだ。でも諦められなかったのは、もう僕が先に君に夢中だったからさ。
僕というモテモテ男子が、狙った女の子を落とせないなんて、色男の看板に泥を塗ってしまうだろう?だから僕は躍起になって彼女にアピールしたのさ。皆が言ったよ。僕にはもっと華やかで、美しい女性が似合うってね。
僕もそう思ったよ。でも、同時に、誰も知らないんだなってほくそ笑んだものさ。
君の内に潜む可憐さも、真面目さの裏にある、抱きしめたくなる様な一途な努力も、本当は人一倍乙女なところも。
その内僕の愛が君にも伝わって、僕らは付き合いだしたね。君の初めての彼氏になれたことを今でも誇りに思ってる。沢山デートをして、お互いのことを沢山話して、偶に喧嘩もしたけど、もう君なんて、と思っても、しおらしく俯いて謝る君を見ると、僕は怒りなんてすぐに吹っ飛んでしまって、心いっぱいに反省するのが常だった。
こんな僕を許して、受け入れて、愛してくれる君を、僕は一生大事にするって決めたんだ。君を絶対幸せにするってね。
だから、いいんだよ。
いつまでも僕を引きずる必要は無い。君は世界で二番目に好きになった人と、沢山デートをして、お互いの話をして、たまに喧嘩をしても支え合って、幸せに生きてよ。その日常の、ほんの偶に、僕のことを思い出して、花でも添えてくれれば僕は満足だから。
あ、でも、いくら君が好きになった人だといえども、元夫の墓参りを許さないような束縛の激しい男はやめてよね。流石にもう一生君に逢えないのは寂しいよ。
それでいい。それがいい。
君を本当に想うなら、そう言い切るべきだね。だけど僕はもう死んじゃうんだから、この手紙を君が読む頃には僕と君は対話すら出来ないだろう?君はどうせここまでの文を読んで憤慨しながら1人で泣いてるんだろ?
馬鹿だなぁ。でもそれは僕もなんだ。本当はずっと僕を想ってて欲しいさ。そりゃそうだろ。君は僕を愛してるって言ったんだ。僕が死んで、すぐに次の男に夢中になられちゃ、僕の努力が報われない。
でもね、僕は世界で1番君をよく分かってるから、君は僕にどうこう言われなくても自分で生き方を決めるって分かるんだ。いいよ、それで。生き方は君が決めるんだ。
とにかく僕はね、君が幸せになってくれればなんでもいいんだからさ。
どう?最後の最後まで僕はかっこよくて、君の理想の夫だろう?先に君を待ってる。でも、あんまり早く来なくていいよ。僕はきっとあの世でもモテモテだろうけど、君以外の女性にうつつを抜かす僕じゃないからさ。
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何度も何度も読み返したせいでくたくたになり、年数を重ねて黄ばんだその手紙をまた折って封筒にしまう。
いつもの花屋で彼に似合う美しい花を買って、彼の墓石に手を合わせる。
「全く、貴方のせいで結局独り身のまま死にそうよ。……でも、先に逝ってしまった貴方を思いながら過ごす日も悪くなかったわね。もうすぐそちらへいくけれど、ちゃんと待っててくれますね?」
そう言って、大好きな人の名前が刻まれた墓石を撫でる。視界に映るその手はあの人が知ってるであろう私の手とは全然違って、しわしわ。
それを見て、少し、考える。
こんなにシワシワになって、あの人は私を分かってくれるかしら。
4/4/2024, 10:46:27 AM