猫宮さと

Open App

《裏返し》

喜び。楽しみ。思いやり。驚き。恥じらい。

彼女の表情はコロコロとよく変わり、それがとても心地好い。
ゲームに負けたり軽いミスをした時のがっかりした顔も、本人には申し訳ないがとても微笑ましい。

僕に新しい喜びを教えてくれ、僕の苦しみを悔しがってくれる彼女は、知らぬうちに僕の心の支えになっていたようだ。

だが、最近気付いた。

例えば。
書類の確認中にふと顔を上げれば、外の風に揺らぐ木をを見ている彼女。
読書、特に帝国の近代歴史についての本を読んでいる彼女。
夜の月を眺める彼女、それが満月に近ければ近い程。

彼女は微かにではあるがどこか淋しげで、それでも決意に満ちた表情をしている。

気付いた時に、頭を過ぎった。
彼女の普段の明るさは、何か心に置き留めた重さの裏返しではないのかと。

彼女を闇の者として監視している立場でこのように考えるのは、烏滸がましいとは思う。
それでも、何かの折には彼女のその心の重さを分け与えてほしい。
その為にも一層彼女に誠実に向き合おうと、僕は心に誓った。

8/23/2024, 12:29:38 AM