無人島というものは、不動産経由で買えるらしい。
つい最近、著名人が無人島を購入したことがネットニュースに取りあげられていた。
「無人島行くなら、なにしたいです?」
ぽやぽや眠たそうにしながらも、体をしなやかに伸ばしてストレッチをしている彼女に声をかけてみる。
「無人島?」
上半身を逸らして視線を俺と合わせた彼女は、まんまるとした額を晒したまま考え込んだ。
なにかひらめいたのか。
目を輝かせながら体勢を変えて俺のほうに体を向けた。
「ライフライン通してでっかい体育館建てて、スポーツ大会とか主催しちゃいたい」
「え」
なんて?
星が見たいとか、キャンプとか、プライベートビーチとか。
サバイバルとまではいかなくても、アウトドア的なレジャーがあっただろ。
予想の斜め上からの答えに、聞いた俺のほうが戸惑ってしまった。
「……企業都市として開拓でもする気ですか?」
「サバイバルとか柄じゃないもん」
「たくましそうですけどね」
「そうかな?」
体力は申し分なし。
心臓には毛が生えている。
かわいい。
最高ではないか。
こんなかわいい子の彼氏が俺とか最高すぎるだろう。
こんな天使みたいな人と巡り会えたのだ。
前世の俺はアホみたいに徳を積んだか、神様が慈悲を与えたくなるほどの凄惨な死を遂げたに違いない。
「無人島に行くなら持って行きたいですもん」
「私を?」
「ええ」
「正気?」
「もちろん」
彼女がいるだけで生き残れる気がしてきた。
ひとり上機嫌になる俺をよそに、彼女は瞬きを繰り返して首を傾げる。
「断固拒否するね?」
「なんでですかっ!?」
「だって。衣食住が揃ってないところはちょっと……」
眉を寄せて、無人島でのレジャーを真っ向から否定された。
もうちょっと、ロマンとかそういうのにノってくれたっていいじゃないか。
とはいえ、彼女は暗いところが苦手だし、神経質できれい好きだ。
自分でできないことは躊躇うことなく札束を使い、プロに解決を頼む人である。
確かに、無人島でサバイバル生活は向いていなさそうだ。
「日帰り観光なら一緒に行ってみたいけどね」
「あー……。歴史遺産とか廃墟的な……?」
「そそ」
言われてみれば、知的好奇心を満たす目的のほうが彼女らしくてしっくりくる。
「無人島、行きたいの?」
「いえ。俺、シャワートイレ完備されてないとか、害虫とか無理なんで遠慮したいです」
そこはキッパリ否定すると、彼女はズルッと体幹を崩した。
「じゃあなんで聞いてきたんだよ」
「いいとこ取りしてロマンに浸るくらいはいいじゃないですか」
大自然に囲まれる彼女もそれはそれは神々しくて神秘的なんだろうけども。
実際、そんなところに彼女を放り込もうものなら虫刺されとか日焼けとかケガとか、心配のあまり神経がすり減りそうだ。
まあ、安心安全でふたりきりの城ならここにあるもんな。
「ぼこぼこの地面より、ふかふかのベッドで寝たいです」
「あきれた」
くるくるとマットを丸めて片づけ始める彼女を見つめたのだった。
『無人島に行くならば』
10/24/2025, 12:02:23 AM