『ところにより雨』
少年と少女は幼なじみだ。
親同士が仲良しで、幼い頃からよく一緒にいた。
森の中で遊んでいると急に雨が降り始めたので
二人は近くの洞窟で雨宿りをすることにした。
少女は持っていたハンカチで少年の濡れた
黒髪や頬を拭いてあげる。
「ぼくはだいじょうぶですから」
「だめです!かぜをひきますわよ」
バラ、バラ、バラ。雨足が強くなった。
少年は魔法で編み出した火を使い焚き火を
焚こうとしたが、傍にあるのはどれも湿った
木の枝ばかりでなかなか上手くいかない。
くしゅん
くしゃみをする少女を少年が心配そうに見つめる。
「さむいですか」
「このくらいへっちゃらですわ」
少女は強がってみせたが、唇は紫色に染まり、
カタカタと震える体を両腕で抱きしめていた。
「ふくぬいでください」
「どうしてですか」
「ぬれたふくをきてると、たいおんをうばわれます」
衣服を脱いでそっと寄り添う二人。
「さむくないですか」
「ええ、もうへいきです」
お互いの鼓動の音がきこえてくる。
湿り気を帯びた肌がぴたりと触れ合う感触が心地よい。
それから暫くの間、二人とも何も言わなかった。
落ち葉を雨が打つ音や近くで流れる川の瀬音を
ただ静かに聞いていた。
3/24/2024, 1:56:57 PM