22時17分

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ふとした瞬間に、目の前に障壁が現れる。
行く手を阻むそれは、動きが読めない。境界線が曖昧。スライムのように不定形の生物だった。
気まぐれの猫のように、のっそりと動く。
猫だったらいいのだが、そういうわけにも行かない。

疲れた人は、今夜も残業の予定である。
リモートワークの仕事に就きたかった、という。
勇気を持って転職活動をしたはいいが、どこもかしこも同じ企業様の様子だ。新卒採用された頃の賃金よりも下がり、残業代による儚い上乗せで食っていっている。

おれ、何して生きてんだろ。
と、疲労困憊の身体をずりずりとデスクに擦り付ける。疲れ知らずの仕事用ノートPCに齧りつく。縋り付く。マウスのホイールをぐりぐり回す。目も焦点が合わない。学生なら、目の悪くなる環境。夜の非番みたいに、職場は一人。
仕事時間とプライベートが、カフェオレの塩梅で色が溶け合っている。

ふとした瞬間に、その人の頭から何かが抜け落ちるようだった。目の前の障壁とは、実際は疲れた人の魂だろう。普段は心臓に住むのだろう。脳死状態になりながら、ドロドロの血液を回している。
菓子パンなどの安飯を食って、夜食代わりとする。
時計は見たくない。しかし、PCの、隅っこに表示される、デジタル時計は数字を刻んでいた。
23:59から0:00へ。積み重ねた何かがリセットされた。
これを毎日、それも夜に行われている。

その人は、いつからか知らないが、頭や身体をリセットしないので、頭はぼんやり、身体は重い。
カフェインでいつも誤魔化してばかりだ。
このまま三十年戦争は、ひど過ぎる……人生。

4/28/2025, 9:37:42 AM