題 日陰
日陰だ。私はいつもひかげだ。
誰にも気づいて貰えない。
通り過ぎられる。選ばれない。
教室のすみで静かに時が過ぎるのを待つだけだ。
そんな人生望んでなかった。
望んでる人なんていないと思う。
私だってそうだ。
なんでそれなのに、こんな人生なんだろうって思うんだ。
私はずっと続けてるものがある。
それはピアノだ。
唯一ピアノを弾く時だけは心が落ち着く。
そんなに才能が溢れてるわけじゃない。
コンクールでも、最高で健闘賞だ。
銅賞も取れたことがない。
それでも好きなんだ。
指を走らせると響いてくる音色が、私の耳に軽やかに夢やかに届く。
音符が弾んで楽しく踊ってるみたいに感じる。
時に泣いているように、時に怒っているように。
そんな風に様々な感情を感じる。
私の指がそれらを作り出しているんだ。
創造神の気分。
そうしていると少しだけ心が落ち着くんだ。
教室では無価値かもしれないけど
誰にも必要とされてないかもしれないけど
私だって出来ることがある。
それで自分の心を癒すことが出来る。
それにね、先生は褒めてくれる。
いつも私の音が生きてるみたいですてきだって言ってくれる。
たまに一緒にピアノを弾いてくれるけど、そうするとリズムもメロディもどこまでもどこまでも広がって、私は創造の海にひたることが出来る。
無価値とは無縁のところにいるんだ。
そして、家に帰って、あったかい両親と楽しく会話する。
そうだね、また次の日の朝激しく憂鬱だけどね。
でも、私の世界は閉ざされてないと思うの。
何もかも無いわけじゃないと思うの。
世界はひとつじゃないと思うの。
教室の中だけのことを考えると絶望だけど。
私には音楽の世界がある。
イラストや、ゲームや、歌や、他の趣味の世界の人もいるだろう。
そして時間は動く。
永遠にそこにとどまる必要はない。
自分で動く選択をしたっていい。
だから、いつだって私には無限の場所が開けていると思ったの。
ひとつの場所のひとつの価値が私の全てじゃないって思ったの。
だから教室にいる私を全てだと思って落ち込まないようにしたいなって、思ったんだ。
そう転換するとフシギだね、ちょっと心が軽くなったんだよ。
1/29/2025, 10:03:09 AM