おさしみ泥棒

Open App

 さっきから、仏頂面で黙りこくっている。見かねた俺がわざと明るい調子で「いつまでへこんでんだよ」と声をかければ、青木は食い気味に「うるさい」と吐き捨てた。

「自分だけいい気になりやがってクソが」
「別になってないけど」
「いやどっからどう見てもなってんじゃん」

 大層な荒れ具合だ。先程の合コンにて、俺と青木の身長差を見た女の子が放った「なんか時計の長針と短針みたい」という一言が、相当堪えたらしい。そのときは場の空気を壊さないように振る舞っていたが、解散して俺と二人きりになった矢先のこれである。

 小学校からの友人である俺だから知っているが、低身長いじりは青木の中で地雷中の地雷である。例えば高一のとき、青木は身長のことをいじってきたクラスメイトをぶん殴って停学になった。
 小さいけれども中身は凶暴な青木とは反対に、俺は背丈ばかりでかい小心者だ。気弱な性格と無駄に目立ってしまう見てくれが災いして、ガキ大将に絡まれることも多々あった。そのたびに、なぜか俺を庇ってくれるのが青木だった。

 正直、青木が低身長と馬鹿にされるのは、自他ともに認めるノッポである俺と一緒にいるせいもあると思う。今日の一件なんてまさにそうだ。
 俺とセットで身長をいじられるたび、青木はこんなふうに俺に文句を言うけれど、それでもなんだかんだ、俺と一緒にいることをやめようとしない。
 あるとき、一度だけ「俺といるの嫌じゃないの」と尋ねてみたことがある。青木は怪訝な顔で「なんで一緒にいるの嫌な奴とラーメン食いに来てんだよ」と言ってから、替え玉を頼んでいた。それもそうかと思って、それ以来、特に気にすることもなくなった。

「だいたいさ、顔は俺のほうがイケメンだからな。お前は身長高いだけで顔は普通だから」
「はいはい。もうそれでいいです」
「おいその余裕ある感じ腹立つからやめろ」

 キャンキャン吠えるチワワのようだ。口に出したら殴られるから言わないけど。

 青木のいいところが、身長ごときで損なわれるなんてことはないと思う。女の子の目は揃って節穴だ。
 本当に見る目のある女の子が青木の前に現れるまでは、青木の隣は俺の特等席ということになる。それはほんの少しだけ気分がいい。絶対、言えないけど。

【テーマ:時計の針】

2/6/2026, 11:07:21 AM