帰り道、いつもの川路を歩く。犬の散歩をする人、買い物に行く人、幼い子を自転車に乗せて走る母。それから-何やら騒々しい声。あまり関わらずに帰ろう、そう思っていた。群衆の中心に碧月を見つけるまでは。
団を抜け出してランドセルを放り傍に近付くと「覚えてろよな!」と捨て台詞を吐き、去っていった。
「大丈夫?」
「別に、いつもの事だしキッチリやり返したし。どうせ、アイツが最近気になる女子とオレが仲良くしてるのが気に食わなかったんだろ」
ま、オレ女子力あるし?そう言って"いつも通り"に振る舞うが、本当は。少し震えた声、ぐしゃぐしゃになった髪、所々汚れたお気に入りの服、擦り傷。強がっている事は目に見えている。そもそもここは碧月の通学路とは大きく外れているし、ここまで来るのも随分気を張っただろうに。しかしそれを指摘すれば余計に隠そうとする訳で。
「な、すぐそこの商店街寄り道しない?お使い頼まれてるから手伝って」
「えー、けが人をこき使う気?」
「その程度じゃ大したことないんでしょ」
絆創膏を渡し、髪を整えて、服を叩く。少しはマシになったかな。そして仕上げに……
「行かないの?」
手をにぎって問う。不安な人には信頼できる人の体温が効くって本に書いてあった。
「行くし!」
ようやっと、本当の"いつも通り"に戻った。嘘と強がりを解く方法は、俺だけが知っている。
お題:『嘘を掬いとる』
6/5/2024, 11:14:37 AM