与太ガラス

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 空は、いつもそこにあった。部屋の窓を開けると、自宅のベランダと隣の家の屋根が見える。電線は見えないが、物干し竿が視界に入る。
 そうやって幾つかの障害物に遮られて複雑な形に切り取られた空がそこにあった。
 先日まで群れをなして行進していた奥行きと陰影を持った入道雲はようやく長い栄光の季節を過ぎて、勢力を失ったようだ。今はうっすらと漂う羽衣のような雲があるばかりだ。
「洗濯物干さなきゃ」
 何もないベランダを見てひとりごちた。
 寝転がって逆さに見ていた景色を戻し、一瞬目に入った部屋の散らかりは見なかったことにして起き上がった。
 思えば窓を開けて外の景色を眺めるなんて、しばらくしてなかった気がする。起きたときには30℃近い暑さの日々が続いて、家にいる間はずっと窓を閉めてエアコンを点けていた。
 洗面所に行き洗濯機を開けると、すでに洗濯は終わっていた。これから洗濯すると思ったでしょ。朝は割と働き者なのだ。ワタシ、エライ(はくしゅ)
 窓を開けてベランダへ出る。働き方改革のおかげで会社もゆるくなり、在宅ワークが定着した。毎日洗濯ができれば二人分の洗濯物なんてたいした量じゃない。5分と経たずに干し終えて部屋に戻ると、スマホにLINEが入っている。

「おはよう、ゆっくり眠れた?洗濯物、忘れないでね」

 あー、えーっと、忘れてた。


 ワタシノパートナーハハタラキモノナノダ。

 エライエライ(はくしゅ)。
 

9/26/2024, 1:40:46 AM