水蔦まり

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幕 間 そして、彼女は夢を描く
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 物心ついた頃から、人の夢や記憶を渡り歩いた。

 時には愛に溢れる幸せな夢を。
 時には地獄に堕ちるよりも苦痛な夢を。

 それでも人は、眠る度に夢を見続ける。
 叶わぬ夢というものを、描き続ける。



『――みんなの、将来の夢は何ですか?』


 至って平凡の普通な子供として、第二の人生を歩み始めて、不意に投げ掛けられた問い。
 周りの学友たちは皆、勢いよく手をあげてそれぞれの思いを素直に言葉にしていく。

 だから、それらしいものをにっこり笑顔で答えて、皆から大きな拍手をもらった。
 使命と宿命を持って生まれる人間に、夢は理想など不要なのだから。



 そう……自分のことなら、そのように納得できた。
 しかしそれが自分以外のこととなると、そう簡単に納得することができないのは、一体何故なのだろうか。



(どうせなら、いろんなものを見せてあげたいわ)


 御上が守る小さな国だけでなく、この日本全国を。そして世界を。望むなら、宇宙だって。

 小さな世界だけでもいいのかもしれない。
 けれど、少しでも遠くの街へ行けば、それだけで自分の中の小さな世界は、少しずつ広がっていく。



(せっかく、この私が命をかけて守るんだもの。将来は、御上をも脅かすほどの大物になってもらわないと)



 彼女は隠れてほくそ笑む。
 それが、彼女の夢だということに気がつかないまま――。






#遠くの街へ/和風ファンタジー/気まぐれ更新

2/28/2024, 3:00:53 PM