『僕ルームシェアやってるんですよ!』
『へーホンマか!大変やろ、どんな感じなん?』
PC画面の中でお笑い芸人さんが話しはじめた。
「あ、ねえねえ、ルームシェアの話してるよ!」
台所仕事をしていたナオに話しかける。私はリビングにノートPCを持ってきて、ソファーにぐでっとしながらくつろいでいた。
「なにそれ、YouBoom?」
「これテレビ番組だよ。TValueで観てるの」
この部屋にテレビはない。でも子供の頃に見てたテレビ番組をたまたま民放配信ポータルで見つけたとき、反射的にお気に入りに登録していた。習慣には勝てない。
『いやもう一週間で同居人キライになりましたわ!』
どきっと同時に胸の奥がヒリっとする。え?なんで?
ナオとルームシェアをし始めて半年が過ぎた。一人で生活していたときより毎日が楽しいし、私にとっては良いことしかないのに。
『ウチの同居人も芸人なんですけど、散らかしっぱなしで掃除も洗濯もなんにもしないんですよ、もう頭に来て!』
う、思い当たる節がある。ナオに聞かれてないかな。
「あはは、カナデみたいなヤツだな」
「は?えええ、ど、どこがー?」
やっぱりナオもそう思ってたんだ!てことは私のことキライってこと?
「っはは!なに動揺してんの。冗談だよ」
「や、でも、よく散らかすのはホントだし、いつもナオに掃除させちゃってるし」
モヤモヤが取れない。
「ごめんごめん、そんなのお互い様でしょ。余裕があるときにやればいいって」
やばい、私めんどくさい女になってる。
『もうあいつは友達じゃないですわ!』
やめて、そんなわけない。でも…
『でもしばらく一緒に住まなアカンのやろ?』
気になったまま終わらせたくない。やっぱりいま聞かなきゃ。
「ナオは、私のこと、いまも友達だと思ってくれてる?」
「やめてよ恥ずかしい」
なら私から言う。
「私は、ナオのこと大事な友達、いや親友だと思ってるよ!」
ナオの顔が困ったような、何かをこらえているような表情になる。
「わかったよ」
ナオがカフェオレを一口すする。
「私も親友だと思ってるよ」
胸のつかえが取れていく。ナオは続けた。
「でもね、一緒に生活しているとさ、もちろん友達だったら見えなくていいところも見えてくる。そういうのをさらけ出すのって、それはもう…」
ナオは言い淀んだ。呼吸を整えている。私は黙って見守る。口を開くと
「それはもう家族って呼んでもいいんじゃないかな」
そう言ったナオの頬はほのかに赤くなっている。
「やー!嬉しい!いいの?家族でいいの?私もね、ホントはパートナーって言いたかったの!家族?ファミリー?もう一生ついて行きま〜す!」
「こいつ調子いいな!」
私も顔が熱くなるのを感じていたけど、ハイテンションでごまかした。
『あいつとはもう戦友みたいなもんですわ!』
PCの中で芸人さんが宣言した。あんまりウケてはいないようだった。
10/26/2024, 12:37:56 AM