月下の胡蝶

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お題《雨に佇む》


雨隠し。



雨に埋もれた町。


雨に包まれた町。



視界が游ぐ。だって、目覚めたら雨の中に佇んでいたのだから。


煌々と落ちてくる雨粒は美しく宝石のよう。空を游ぐ魚たちは、一体どこから来たのだろうか。好奇心で溢れ出してしまいそうな心を押し込めて歩いていると、すうっと誰かが近づいてきて、顔を覗き込まれる。




「――ねぇお兄さん、もしかしてニホンから来たの?」




――足が魚のヒレ……? この子、もしかしなくても人魚姫――。



少女はオレの視線に気づき、楽しそうに言った。


「正真正銘、私はこの雨の町に住む人魚、ゆめかだよ! あのね今日はじめて外に出てきたの――神楽がやっと許してくれたんだ」


「……神楽?」



神楽、と聞いた瞬間――水の音がよみがえる。



深海にさしこむ月灯り。



揺れる。


揺れる。





この記憶は、一体誰の、もの――――?




8/27/2022, 11:24:47 AM