撫子

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 いつも図書室の窓辺に寄りかかって、一心に手元の本を捲っていたあなた。
 なぜか本を借りていくことは一度もなく、その場所で読むだけだったので、彼女の名前はついぞ知らないままだった。
 ただ上履きの色から、最高学年だと分かっただけ。それだけ。

 卒業式を翌日に控えた夕方、暮れゆく窓辺に寄りかかり、ふと私の方を向いた彼女の囁き声が、夢の残骸のように忘れられない。

 ──先生、命が燃える色って、きっとこういう色をしているんでしょうね。

 その胸元に抱きしめられた、銀河鉄道の夜。
 もしかして、あなたは、本当の幸福とやらを知って絶望していたの? それを確かめるすべは、もうどこにもない。
 私にとって、カンパネルラよりも別れが惜しかった、名も知らぬ彼女は、今は、何色の空の下に佇んでいるのだろう。

(君と最後に会った日)

6/27/2023, 1:01:56 AM