駄作製造機

Open App

【君に会いたくて】

『行ってらっしゃい。滝郎さん。』
『はい。行ってきます。奈々代さん。』

私達夫婦は、口付けを浅くする。

辺りには日本旗を掲げたたくさんの彼らの遺族。

汽笛が鳴り、応援の声も大きくなる。

『日本、バンザーイ!バンザーイ!』

『勝て!日本!』

彼らは今から、重い使命を背負い死へと向かう。
彼らは日本兵だからだ。

私の夫も、日本兵の1人。

男の人ばかりが駆り出され、女性は戦争に参加できないと隣のおばさんが嘆いていたが、私は誰1人として戦争に行ってほしくなかった。

そんなこと言ったら非国民だと言われてしまうけれど。
今の日本は第二次世界大戦中であり、絶賛優勢だと言われている。

わからない。

夫が戦場へ行くと知った時、私の心情が測れるだろうか。

心が重く、苦しく、そして悔しくなった。

一生を誓い合った夫婦だからこそ、死なる時も、喜びなる時も、共にと。

国はそれをさせてくれない。

夫に言ってほしくなかった。
『生きて帰る。』と。

だってそれは、夫が自身に言い聞かせている様に見えたから。

わかってるんじゃないのか?

夫は、今回の戦場で死んでしまうと。

夫は穏やかで優しく、誰とも争いを好まない。

そんな夫が人を殺める事が可能なのか?

否、確実に無理である。

食事の時も、入浴の時も。
空襲で防空壕に隠れている時も。

いつ何時も、私は夫の帰りを望み、祈った。

ーー

夫が戦場へ出向いて1ヶ月が経った。

『どうか、どうか、、』

切に願う。夫を、死なせないで。

ーー

辺りには銃声と怒号。

俺は首に下げた妻の手作りの守りを握りしめ、汚れた顔を手で拭う。

手。

妻の手を握り、妻の頭を撫で、妻と永遠を誓った手。

その手は今、汚れている。

初めて人を殺した時は、食事も1日中喉を通らなかった。

でも、2日3日と続けば体と心は適応し、いつか自分が生きるために殺すのを躊躇しなくなった。

妻が見たらどう思うだろうか。
血と汚れで塗れた自分の手を、汚れが全くない妻が握る。
自身の汚れが妻に移る気がして、俺は手が震えた。

『、、、奈々代、』

『滝郎さん。』

"今、ものすごく貴方に会いたい。"

お互いにつけていた指輪が、微かに光を帯びた。

『っおい!お前、伏せろ!』

ドオオオオオオオオオオン!

瞬間、俺は土煙と激しい激痛、眠気に襲われた。

奈々代、、

最愛の妻の名も口から出ず、俺は首に下げた守りを握りしめた。

ーー

『っ!!』

今、滝郎さんが死んだ、、、気がする。

信じたくはない。だって、だって、、確信がないから。
でも、、

何故かわかる。

滝郎さんは、もういない。

決定的な、私と滝郎さんを繋いでいたナニカが、ぷっつり絶たれたのだ。

『滝郎、、さん、、』

最愛の夫の名を溢し、嗚咽が漏れた。

"できる事なら、君に、貴方に、会いたい。"

1/19/2024, 10:19:25 AM