作家志望の高校生

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ざばり、ざばりと波が砂をさらっていく。白波がいくつもいくつも浜辺に打ち寄せては引いていく。そんな規則的な海のルーティンを、俺が蹴り上げる海水が乱していた。かき消されたそばから増える足跡に、向かってくる波を打ち消すように広がる水の波紋。俺の痕跡は、確かに波に逆らっていた。世界に取り残されたような異物感にため息を吐く。白い息は、潮風に混じって溶けていった。突き刺さるような冷たい海水で、足の感覚が奪われていく。爪先が痺れるように痛かったが、冷たさで麻痺してしまって今ではもうわからない。あの時は、ここはこんな風に寂しくて暗くて色の無い世界ではなかったはずなのに。
見渡す限りの青。ギラギラと照り付ける太陽を海が反射して散乱させる。水平線の向こうで育っていく入道雲に向かって飛んでいく海鳥たちは、鳴き声を残して空の彼方へ消えていった。クリーム色の砂浜に残るのは、2人分の足跡。瞬きをして目を開く。顔を上げた目の前に居たのは、間違い無く彼だった。記憶も残っていないような頃からずっと隣に居た俺の片割れ。人と話すのが苦手な俺と違って、彼は明るくて真っ直ぐで、誰にでも懐く犬のようだった。目の前の彼が、そのヒマワリのような笑みをこちらへ向けて手を差し出してくる。俺はその手を取ろうとして手を伸ばした。
その手が空を切って、俺は現実に戻ってきた。目の前に広がるのは、灰色の空とそれを映した白い海だけ。色の無いこの世界に、戻ってきてしまった。海から引き上がると、足は霜焼けで真っ赤になってしまっていた。このモノクロの世界にぽつんと広がった色は、異物のようにしか思えなかった。彼が居た海は、あんなにも色とりどりで眩しかったのに。俺の頬を伝う涙が、波の届かない砂浜に雫の跡を残していく。この跡を波がさらってくれれば、あの夏に囚われたまま止まってしまったお前の時が、動きそうな気がした。お前が居ないまま進んでしまった季節は、はらりと雪を舞わせてくる。世界は確実に進んでいるのに、あの夏死んだお前だけが、お前に照らされていた俺だけが、網膜の裏に焼き付いた青に囚われていた。

テーマ:終わらない夏

8/17/2025, 11:38:23 AM