俺は自分が好きだ。ナルシストと言われようと構わない。そんなものを恥じる程度の価値ではないのだ、俺は。
頭も、顔も、家柄も。どれを取っても、誰かに劣るようなことはない。恥じるようなこともしていない。清廉潔白とまではいかずとも、胸を張って太陽の下を歩けるような生活をしているつもりだ。
特に、顔が整っている自信はある。少なくとも、これまでの人生で相手に困ったことは無い程度には整っているはずだ。鏡を見れば、切れ長の瞳に長い睫毛、程よい厚みの唇は健康的な血色を宿していて、そのすぐ上にすっと通った鼻筋がある。突然ノーマルカメラで撮られたって平気なビジュアルなのである。
そんな俺には、ある悩みがあった。恐怖と言っても過言ではない。
老いである。
老いは人の価値を奪う。どれだけ容姿が整っていたとしても、老いて皺とシミだらけになった顔を美しいとは誰も思わない。どれだけ賢かったとしても、一度呆けてしまえば元には戻らない。唯一残る可能性のある家柄だって、年を取れば取るほど、その価値は低くなっていく。
全てを手にできるほどの自信を持った俺も、時の流れには逆らえない。さすがに、この世界の理を覆すほどの力は持っていない。
俺は毎日自信を持ち続けながらも、心のどこか奥底で、ずっと老いに怯えていた。肌は丹念にケアをし続け、その日の出来事は全て日記に記録。家の事情もなるべく把握して、自分の価値を高め続ける努力は止めないで。
それに、少し疲れてしまったのかもしれない。
たまたま、テスト前期間と、家業の繁忙期が重なった。多忙を極めた俺は、1日だけ、たったの1日だけ、何のケアも、日記も、何もできず気絶するように眠りについた日があった。
その翌日。俺はこれまで味わったことのないような恐怖に襲われた。たった1日ケアができなかっただけで、ほんの少しではあったが肌が荒れた。日記を1日書き損ねたら、もう俺は昨日の出来事が思い出せなくなった。
俺が俺の価値を見失いかけた出来事。あの時は本気で老いに怯え、時間が怖くて、時計を壊してしまおうかとさえ思った。
そんな俺に手を差し伸べたのは、ずっとずっと昔、俺がまだ軟弱で、愚かでどうしようもないような頃を知っている幼馴染だった。
彼はたった一言を無愛想に言っただけだった。それでも、俺は救われた。
『お前の好きなお前は、その程度の男なのかよ。』
あの一言で、俺は目が覚めた。俺は俺が好きなのだ。それは価値があるか否かではなく、俺が俺である事実が、好きだったのだ。
その日から俺は、もう老いに怯えることもなく、俺を愛せるようになった。
テーマ:I LOVE…
1/30/2026, 8:16:46 AM