たいせつなひとが死んでさ。
ほんとに君、なーんもいらないの?
僕だけに見える僕よりも背が大きいお兄さん。
生前、母さんが見せてくれた写真に写る子をそのまま大きくしたみたいだ。あの子は母さんの弟―つまり、僕の叔父さんだった。
でも、叔父さんは母さんが幼い頃に病気で亡くなったらしい。ちょうどお兄さんぐらいの歳で。
弟の魂は未だあの病院で、母さんが来るのを待っているんだ。弟と同じ病気で亡くなる母さんを、何年も何十年も。
それで、時折ふらっと患者の前に現れる。ぼくが、入院したときみたいに。
母さんが唯一の家族だった僕は、親戚に連れられ新しい生活をはじめた。
新しい服、新しい家、新しい学校…
たくさんの「あたらしい」が僕のことを着飾ってるけど、まだまだぽっかり穴が空いてる。
おばさんが僕を心配して穴を埋めようとするほど、どんどん穴が広がってく。
だから、お兄さんに聞かれても「いらない」って答えた。僕を満足させるものなんてないんだ。
もし、本当になんでも欲しいものをくれるなら、おかあさんをかえして欲しい。
4/20/2023, 11:18:41 AM