〝 手を繋いで 〟
「 あっ 、 雨 降ってきたね …… 」
黒い雲からポツポツと雨粒が降っている。
金曜日の学校帰り、俺は彼女と二人で帰っていた。
通学路が偶然同じなので、昔からよく一緒に帰ったり遊んだりしていたものだ。
まあ、今もそうなんだが。
「 わたし 、 傘もってるよ 。 使う ? 一本しかないけどね 」
彼女がそう訊いてきた。
流石に悪いと思って断ろうとしたものの、彼女は俺の言葉を聞こうとはせず、傘を開いた。
「 一本でもね 、 二人で入れば 解決でしょ ? 」
いや、確かにそうではあるんだけど。
今のこれは相合傘、距離が近いのだ。
俺は彼女の事が好きだ。たぶん、此奴は俺の気持ちに気付いて居ないけれど。
でも、無意識だとしても、こういう事をされると少しは気があるんじゃないのかと浮かれてしまう。
……まあ、そんな事、ないとは思うが。
暫く歩いていると、公園に着いた。
この公園は家から一番近かったから、よくここで二人で遊んでいたなあ。少し感傷に浸り、立ち止まってボーッと眺めていた。
「 ちょっと 、 何してんの 。 置いてくよ ? 」
彼女に声をかけられ我に返る。
急いで小走りで追い付くと、いつの間にか雨が止んでいることに気付いた。
傘はいらないだろう、と言うと彼女は何故か少し残念そうな表情を浮かべる。
「 … わたし 、 寒いや 。 手繋ご …… ? 」
思わずえっ、と声を漏らす。こんなこと、今までになかったのに。
こういうことをされると期待してしまう。
だが、少し潤んだ彼女の瞳にドキッとして、断れず手を繋ぐことになってしまった。
( あああ … ダメだ緊張する …… )
一人で心の中で大騒ぎしていると、彼女は俺の指と自分の指を絡ませてきた。
所謂、恋人繋ぎというやつだ。
バッと彼女の方を向くと、此方から視線を逸らし頬を少し赤らめていた。
こんな顔の彼女は見たことなくて、見た途端心拍数が上がったのがすぐに分かった。
「 ……… 」
無言のまま時間が過ぎ、いつの間にか彼女の家の前まで来ていた。
「 あっ 、 …… じゃ 、 じゃあな ! 」
なんだか気まづくて走り出そうとすると、彼女は俺の手首を掴んできた。
思わず振り向くと、彼女は俺を真剣な表情で見つめこう言った。
「 … 明日も 手繋いで帰らない …… ? 」
「 … 断る訳ねぇだろ バカ。 」
なんだか恥ずかしくて、走って家に帰った。
12/9/2023, 11:55:27 AM