《鋭い眼差し》
※当方、銃に関しては素人です。
ご都合的な描写をしていますので、気に触りましたら申し訳ありません。
今日は、彼が私に射撃訓練をするところを見せてくれることになった。
以前に私がそれを見たいと呟いたのを覚えてくれていた彼が準備をしてくれて、私達は揃って射撃場にいる。
「危ないですから、そこから先には近寄らないようにしてくださいね。」
そう言って指し示した場所に私を立たせた彼は、銃を撃つための場所に移動する。
ここからだとちょうど、彼が的を狙う横顔が伺える。
別世界からだと彼が大きめの銃で戦う全身は見られても、全然表情は見ることができなかった。
それもあって、私は物凄く楽しみで仕方がなかった。
きっと、凄くカッコいいんだろうな。
彼は所定の場所に立ち、自分の掌くらいのサイズの銃を取り出した。
そして、ささっと銃を操作している。たぶん、安全装置を外しているんだと思う。
的までは、私から見ればかなり遠い。
素人目では、的に弾を当てることすら困難に思えるほど。
「では、いきますよ。」
そう私に声を掛けた彼は、まっすぐに伸びた背筋で的の方を向く。
銃を持った右手を前に持ち上げ、左手を右手にしっかりと添える。
その体制でぴたりと止まった瞬間、彼の纏った空気が凍るように張り詰める。
的を見据える燃えるような鋭い眼差しは、それだけで的を射抜かんばかり。
私も釣られて肌がひりつくような緊張感に包まれたその時、彼の銃からパシュっと音がした。
銃身から飛び出した弾は、遥か先にある的の中心を難なく貫いた。
難なく。そう見えるけれど、それが如何に難しい事であるかは素人でもある程度理解はしているつもり。
だから、私はひゅっと息を飲んだ。
見事に的に命中させた彼の技巧と一連の動作の美しさに、私は彼が今までどれだけの血と汗を滲ませて訓練してきたかが感じ取れた。
私が声もなくそんな彼に見惚れていると、彼は的を見据えていた鋭い目をそのままにこちらを向いた。
その突き刺さる氷のように冷淡にも見える眼差しの奥には、どんな困難も貫き通す強い意志が燃えている。
それは、ほんの一瞬のことだった。
私に向けたわけではない、的に向けていた彼の集中の名残りの眼差し。
けれどその眼差しに、私は全ての意識を奪われた。
怖いけれど、綺麗。
不純なものなど焼き尽くされたかのような、美しさすら感じる威圧感。
恐怖の向こうにある、完全に呑まれた者のみが触れることの出来る重厚で夢のような昂揚感が、私の心を支配した。
ああ、だから私はこの人に自分の命を託せたんだ。
私が本当に闇に魅入られた者ならば、あなたに引き金を引いてほしい。
この世界で、自分が何者か全く分からない。
そんな私を裁くのは、あなたであってほしい。
あの時月に願い誓ったこの想いは、決して間違ってはいなかった。
私が気が遠くなるような一瞬に想いを馳せていると、彼は銃の安全装置をロックし、目を伏せふっと息を吐いた。
そして目を開くと、いつも見せてくれる柔らかな眼差しを私に向けて言った。
「どうでしたか? 普段僕の使う銃とは違うので、本番ではないですが緊張しましたね。」
彼にとっては至極当たり前で、今の私にとっては至極唐突なその優しい声に、私の意識はグイと現実に引き戻された。
それでもその現実は酷く優しく暖かく、次はそれを得られた幸福感に私の全身が包まれた。
「はい…あの、本当に…見事でした…。」
私はどうにも掴めないふわふわした心地で、彼に何とか口に出せる本音を伝えた。
10/16/2024, 9:03:37 AM