ミヤ

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"どんなに離れていても"

グラス1杯で上機嫌に酔っ払った貴女は、踊るようにステップを踏んだ。色分けされた敷石をジャンプして、車止めの段差の上をバランスをとりながら渡り歩き、数歩先を行ってはクルリとこちらを振り返る。
外食帰りの夜道を、ふらふらと危なっかしい足取りで歩む貴女に苦笑していた時だった。
綺麗な満月、と歓声を上げた貴女が、歩道橋の階段をトトトッと駆け上がった。
慌てて追いかけ、丁度道路の真ん中に当たる位置で追いつく。鼻歌混じりに月を見上げる貴女に溜め息を吐いて、もう帰ろう、と囁いた。

月から僕へと視線を落とした貴女は、少しの間何事かを考えるように首を傾げて。
ふと、笑った。
そうして、トンッと手摺りに跳び乗り、両手を広げて。
"わたしが何処か遠くに行ったとしても、ちゃんと追いかけて見つけてくれる?"
冴え冴えと光輝く真円の月を背後に紡がれた言葉に、思わず息を呑んだ。

もしも貴女がいなくなったら?
そんなこと、考えたくもなかった。
どんなに離れていてもどんな場所であっても必ず貴女を見つけ出す、なんてヒーローみたいに自信に満ち溢れた格好良い事は言えない。
でもね、探すに決まっている。
追いかけるに決まっているだろう。
置いていかれるのはもうたくさんなんだ。

縋るように手を伸ばす。
月に攫われて何処かに消えてしまいそうな貴女を腕の中に閉じ込め、強く抱き締めた。

仕方無いなあ、と。
本当に君はわたしが好きだねぇ、と貴女は笑った。
瞳を閉じて、暗闇に貴女を感じる。
導のように明るく光るその声だけが、
僕の生きる理由の全てだった。

4/26/2025, 6:13:02 PM