香草

Open App

「旅路の果てに」

ようやく一軒の小屋が見えてきた。
久しぶりの人の気配に涙が一筋垂れてしまうほどの感動が胸に迫った。
一人でやっていけるさ、と啖呵を切ってほぼ家出同然で村を飛び出し数年。
何度あの時の自分の顔を形が変わるまで引っ叩きたいと思ったことか。それほどまでに旅は過酷だった。
そもそも村を飛び出したのはお節介な村人や娯楽も刺激もない平凡な村に飽き飽きしたからだ。
異国の都市に行って、一発当てて楽しい人生にしてやるぞ、おれはこんなところにとどまってはいけない人間だと本気で信じていた。
しかしぬくぬくと大切に育てられた温室育ちに旅は向いていなかった。
村の畑では見たことがない食材、常識が一切通じないどころか理不尽な盗賊たち、見たことないけれど本能的に近づいてはいけないと分かる動物たち。
これなら父親に怒鳴られながら畑仕事する方がマシだったし、母親の甘ったるい料理を食べ続ける方が良かった。
何も起こらないのもまた苦痛だった。
自分一人だけを残して人間は絶滅してしまったんじゃないかと思うような日々が続いた時もある。独り言が増えて本当に気が狂ってしまうのではないかと思った。村の爺さんの長い話が恋しいと思ったのはそれが初めてだった。
旅の思い出に浸りながらドアをノックした。
「ただいまー!」
甘い香りが勢いよく出迎えてくれた。

2/1/2026, 9:41:37 AM