思い出

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また、二番目だ。

その日は、学期テストの結果発表の日だった。
共用掲示板に貼り出された結果を見て、自分の名前を探す。
一枚目、二枚目、三枚目…。有った。

それを見て、私はため息を付く。
もううんざりする。また二番目だ。
いつもいつも、どれだけ勉強をしても、抜かせない。

あれだけ努力をした。だから、何時もより自信があった。

足元から、泥に突っ込んだ様だ。とても重い。
その泥が、足元から体を這い上がって来る。苦しい。
喪失感が全身を包み込む。

もう嫌だ。

叫びそうになり、その場を駆け出した。
苦しい。誰か、私の努力に気付いて。

「おーい!」

廊下を走っていた私の耳に、貴方の声が届いた。
咄嗟に、立ち止まる。
声のした方を向くと、手招きされている。

「こっち来て、部屋空いてる。」

貴方が立っている部屋の標識は、保健室、と書いてある。
私は誘われるがままに、ふらふらと歩いて行った。

中に入ると、先生が居ない。そして、ベットが空いていた。貴方は、秘密だからね。と、笑っていた。

「ほら、ベット入って。落ち着くまで、寝てた方が良い。
一応外に居るけど、何かあったらすぐ呼んでね。」

そう言って、カーテンを閉めようとした貴方に、ありがとう。とだけしか言えなかった。

貴方は笑って、大丈夫だよ、と言ってくれた。
一人になり、またテストの結果が脳裏に蘇る。

陰鬱で、呪いの様な、じわじわとした泥が体を覆う。
息が、苦しくなってくる。ああ、死んでしまいそうだ。

目をつむり、一人で泥に耐えていると、ふと手が暖かくなった。
その瞬間、体が楽になる。ホッと息を吐き、目を開くと
貴方の手が、私の手を包んでいた。

貴方はゆっくりと、小さい声で何か話している。
耳を澄ますと、優しい声色が聞こえた。

「今回のテストも、結果が気になっちゃったんだね。
何時も頑張っているから、気になっちゃうんだね。」

胸が、チクリとした。

「凄く頑張ったもんね、だから、苦しいんだよね、
努力してたのに、って思っちゃうもん。」

チクリとした棘が、深く刺さって行く。

「凄く、報われない、認めて貰えないとか、考えちゃうよね。」

深く刺さった棘が、心を貫く。しがらみを、貫いた。

そう感じた時、視界が歪む。駄目だ、泣いてしまう。
貴方は優しい声で、

「貴方のした努力は、貴方の望む結果に成らなかったかもしれない。無駄になったとか、思ってしまうかもしれない。」

その言葉は、貫かれたしがらみをゆっくりと解く。
そして、痛む心を柔らかい綿で包んで守ってくれる。

「休み時間も机に向かって、あの感じだと、家でも休み無く勉強してたでしょ?なのに、駄目だったって思っちゃうもん。」

「でも、忘れないで欲しい。貴方の努力は、無駄じゃないし、無意味でも無い。だって、後悔はしてないでしょ?
後悔なんて出来ない位、努力してたの、ずっと見てた。」

「だから、忘れないで。貴方の努力は少しも無駄じゃ無かったって事。報われなかったなんて、思わないで。」

「私が見ていたから何だ、って思うだろうけど、見ていた人がいた、その努力を認めてくれた人がいたって事。
それは、嘘じゃない。だから、自分を赦してあげて。」

嗚呼、何でそこまで甘いのだろうか。

私の胸の中にある想いは、軽くなっていた。

9/10/2023, 1:38:40 PM