「さーとーるくーん、あっそびましょー。」
「…。ん。」
コンコンとノックが鳴り、ドアの外から聞こえる軽快な2人の声。
時計をチラリと見ると、短針と長針がピッタリと重なっていた。
午前0時。先ほど眠りについたところだったが、眠りが浅かったのだろう。微睡みから一気に現実に引き戻され、悟はゆっくりと起き上がった。
傑と硝子だというのはわかっている。こんな時間に無遠慮に訪れる輩など2人しかいない。
酔っ払ってんのか?なんだよ、こんな時間に。あーねみぃ…。
悟は寝ぼけ眼で、ボサボサの髪を掻き毟りながら、フラフラとした足取りで気怠くドアを開けた。
「なぁ、俺寝てたんだけど…酔っ払ってんならまた今度に…。」
目を擦りながらそう返答をすると、言い終わらぬうちに。
パーン!と耳を劈く爆音にビクッと体が跳ねる。
「は?え?なに?!」
「悟!誕生日おめでとう!」
「おめでと〜。」
そこには三角帽子を被り、両手を突き出してニコニコしている2人がいた。寝起きのぼやっとした頭が混乱している。手に握られたそれがクラッカーである事は理解したが、寝起きのぼやけた頭には余りにも情報量が多く、状況を受け入れるのには少々時間を要した。
「…え、誕生日?」
少しだけ回り始めた頭で考えてみれば、なるほど、日付が変わった12/7、今日は悟の誕生日だった。
だけど…誕生日とは言えど、何故2人はこんなに楽しそうなのか。
頭には大量のハテナが浮かんでいる。
「ほらほら、ちょっとお邪魔するよ。」
「五条に良いもん持ってきてやったぞ。」
そう言って三角帽子を被らされ、2人に肩を組まれれば、あっという間に部屋の中央にある炬燵に連れていかれた。
そして3人が向き合うように座り、持っていた袋から小さな箱を取り出したかと思うと、傑と硝子はそれを悟の目の前に披露する。
「プレゼント持ってきたんだ。受け取ってくれるかい?」
傑は子供のようなワクワクした笑顔で悟にそう言い、早く開けてとせがむ。
「ちょっと待て。タイム。誕生日にプレゼントって何?」
「は…?マジで言ってる?誕生日はお祝いするもんでしょ。」
まさか…いくら格式の高い五条家の出だとしても、本当にそれを知らないとは思わず、2人は目を丸くした。
「たかが誕生日だろ?」
そう言いつつも、徐々に嬉しさが込み上げる。
「俺、こんな風に祝われたことねぇから…。もしかしてお前らにとってこれって普通ってやつ?」
「そうだよ、誕生日はお祝いして、ケーキを食べて、プレゼントを貰える日。知らなかった?」
誕生日なんてただ座らされて、知らないおっさん達が来て媚び売ってくるつまんねぇ日だと思ってた。
本当に、知らなかった。こんなに胸が高鳴って、楽しい日だなんて。
「ははっ。サプライズ大成功じゃん。」
ケーキ食べよ、五条甘いの好きだろ。そう言い四角い箱から6号サイズのケーキを取り出すと、そこにはチョコレートに書かれた"誕生日おめでとう"の文字。
やばい。嬉しい。楽しい。嬉しい。
何度も何度も頭を同じ思考がぐるぐると回っていた。
そんなに嬉しいなら毎年祝ってあげるよ。
そう言われ、胸が躍る。
毎年毎年、3人で一緒に。
「おぅ!」
とびきりの笑顔でそう言うと、ケーキを勢いよく頬張り、うめぇ!と高い声を出す。
そうして悟の"初めて"の誕生日は幸せな雰囲気と共に幕を開けた。
12/18/2023, 2:53:20 PM