ストック

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Theme:幸せとは

「貴方は幸せですか?」

道を歩いていたら、突然声をかけられた。
声の主は中年くらいの女性だ。手にはパンフレットのようなものを持っている。
宗教か何かの勧誘だろうか。答えてしまったらしばらくこの寒空の下で足止めされることになるだろう。
私は「すみません、急いでますので」と会釈をしてそこから足早に立ち去った。

お目当てのカフェに着いて、ホットミルクを注文する。
温かいマグカップを両手に持って、少し奥まった席に座る。
お気に入りの文庫本を取り出して、ホットミルクを口にする。体の芯から優しく暖まるようだ。
「幸せだなぁ」
思わずそんな言葉が口をついて出た。

ふと、先程の「貴方は幸せですか」という言葉を思い出した。
ホットミルクと文庫本で幸せを感じられるなら、私の幸せはなんて安上がりなのだろうか。
思わず苦笑いが零れる。

でも、私が最近幸せを感じた瞬間はあっただろうか?
何か私が幸せを感じるようなことはあるだろうか?
…考えてみるが、何も思い付かない。

こうして一人で静かに時を過ごすこと。きっとこれが私の幸せなのだろう。
でも、そうでない時間を知っているからこそ、今が幸せだと思うのかもしれない。
そう考えると、幸せって相対的なものなのかもしれないな。

とりとめのない思考に身を任せていると、いつの間にかミルクは冷めてしまっていた。文庫本もどこまで読んだかわからなくなってしまった。
ささやかな幸せは、ほんのちょっとしたことで壊れてしまった。

でも、幸せについて考えるなんて滅多にないことだ。こんなことに思考を巡らせる時間もなかなか幸せだ。

幸せは壊れやすいが案外たくさん落ちているのかもしれない。
そんなことを考えながら、ホットミルクのお代わりを注文しにレジに向かった。

1/4/2024, 12:39:23 PM