時を告げる
幼少期をともに過ごしていた友達と久しぶりに再会したのは、
私が20歳の誕生日を迎えたその日だった。
彼女とは同じ学校へ通い、毎日の登下校や、放課後の時間を一番長く一緒に過ごしていた。
たが、仲良しだったのかは分からない。
家がご近所だったから、なんとなく一緒にいただけかもしれない。
その証拠に、私は彼女のことをあまり知らなかった。
話すのはいつも彼女の方だけど、何の話をしていたか、忘れてしまうくらいにはどうでもいいことだったのか、昔のことすぎて忘れてしまっているだけか。
彼女が何を好きで、どんなことに楽しみを感じ、嫌っているか、
思い返してみても、分からないのだ。
ある時、何かのタイミングで友達を紹介するスピーチをした。
友達と聞いて頭に浮かんだのは、彼女だったけれど、私は言葉をつまらせた。
私自身が口下手なこともあったけれど、それを差し引いても
彼女について説明できることは容姿といつも自転車を乗り回していたことくらい。
でも、多分彼女も私のことを多くは話せまい。
彼女について多くを知ろうとしなかったし、私も自分のことを話したがらなかったから。
それでもいつも一緒にいてくれてたのはありがたかったなと、
彼女を思い出すたびに感謝の思いを抱く。
中学、高校と、学年が上がるたびに私たちは少しずつ疎遠になった。
思春期で周りのいろんなことに敏感になって(もともと私は周りの目や空気に敏感だった)学校へ通えなくなった。
時間のほとんどを家で過ごして、卒業するまでは数えるほどしか学校へ行かなかったし、こんな惨めな自分を見せたくなくて彼女との関係もぎこちなくなってしまったと当時の私は思っていたから。
偶然にも、私は彼女と進学先は一緒だったけれど、
周りの環境に慣れなくて、一ヶ月も経たぬ間に私はそこを去った。
私が学校を辞めることになったとき、
彼女から呼び出されたことがあった。
「学校、どうしても辞めるの?」
私は自分のことを話したがらなかったし、彼女も私のことは別になんとも思っていないだろうと思っていたから、彼女が私のことを気にかけてくれていたということに驚いたのを覚えている。
もしも、そこで彼女が辞めないでと言ってくれたら、
私はどうなっていたのかなと考えることもあったけど、
きっと変わっていなかっただろう。
ただ、何が言いたげな、苦しさとも寂しさとも言えぬ、顔を歪めた彼女の表情が忘れられない。
あの日を最後に、彼女は私の生活からいなくなったのに
またこうして再開するとは何事か。
「久しぶりだね、元気にしてた?」
そう笑う彼女は、いつだかの思い出の中の面影を残していた。
会えた嬉しさもあったけれど、私は言いようのない悲しさを感じた。
綺麗に結われた髪、可愛く着こなす洋服、大人びた顔立ちに映えるメイク。
あの日少女だった彼女が、大人の女性へと変化して、今、私の前に現れたことが、ひどく心を締め付ける。
ああ、いつの間にか、こんなにも経っていたのか。
彼女の存在が、私に静かに時を告げる。
9/6/2022, 1:48:24 PM