無灯

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走り回る先生。いつも忙しそうにしている。
慌ただしくベットを運ぶ看護婦さん。大変そう。
昨日まで騒がしかった隣の部屋。今日は静か。
新しいベットが廊下を通る。新入りさんかな。
今通りかかった女の人。綺麗だった。


生まれた時からそこにいる彼女にとって、
それは世界の全てだった。
真っ白い部屋の壁に、真っ白いベット。
消毒液のにおいのしない世界を彼女は知らない。
窓から見える木の葉だけが、彼女に四季の移り変わりを感じさせてくれる。

この春。彼女は初めて病院から外の世界に出る。
両親は彼女が外に出られると聞き泣き崩れた。

外の世界の事を楽しみに語る娘の目を、両親はまっすぐ見ることが出来なかった。




半年後。その病室に彼女の名前は無くなっていた。



『狭い部屋』より

6/5/2023, 3:15:16 AM