『怖がり』
サークルの旅行で立ち寄った宿で、近くに心霊スポットがあるらしいという話を小耳に挟んだ。男ばかりの5人中、盛り上がったのは3人。俺を含めて2人は絶対行かないという派閥に分かれた。
ノリが悪いだの、協調性がないだの、日和ってんじゃねぇだのと冗談交じりの悪口を言う3人をあしらい、部屋に戻る。
「あいつら迷惑掛けずに戻ってくるといいけど」
「そだね。生きて戻ってくるといいよね」
「その言い換え怖くない?」
「までも、そのときは自業自得ってやつだね」
残ったうちのもう一人は部屋飲みで買い込んだ缶チューハイを傾けながら聞いてくる。
「そいえば、君はなんで行かなかったの」
「うーん。行っても良いことなんもないし、」
俺も缶ビールに手を伸ばしてつまみもついでに取る。
「まぁ、俺がただの怖がりってのもあるかな」
照れ隠しに笑ってビールを傾ける。
「僕は行っても良いことない、って考えは賢いと思うよ」
缶チューハイを一気に飲み干した彼はため息交じりにゲップを吐くと、にわかに声の調子を低くした。酔っ払いの戯言として聞いてほしいんだけど、と前置きをして。
「今夜もし3人が戻ってこなくてもそれは君のせいじゃない。僕らは怖がりで、あの3人はそうじゃなかった。それだけだから」
酔っ払いにしては真剣味を帯びた話に笑うことはできず、わかったと頷いた。
日付を越えても3人が戻ってくることはなかった。
3/17/2024, 4:05:13 AM