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ぬるい炭酸と無口な君


『俺、一度嫌いになった人間とか無理なんだよね』
職場でニタニタと笑いながら自慢げに話す上司に
『わかる!俺もですよ!』
調子良く合わせてゴマを擦り続ける男。

いつも通りのグッタリとする光景を見ないようにしてパソコンに向かう。
ねぇ、知ってます?そこでゴマを擦り続ける調子のいい貴方のお気に入り、貴方が居ない時に貴方のことを誰も悪く言ってないのに突然悪く言い出して可哀想な俺アピールに使ってますよ。

決して口には出さないけれど、人というものの弱さというものを嫌というほどこの職場は見せつけてくる。
強きに媚びて、弱きにぶつける。
ウンザリとするほどにたもの同士ばかりが職場に残り、能あるものはどんどんと飛び立つ。

早いところ私も逃げ出したい。
薄ら笑いを浮かべながら気持ちばかりがすり減る時間を延々と過ごし続ける事に疲れ果てていた。

私も力があったらなぁ。
自分に自信がないから目を逸らす事ばかりに長けてしまって向き合うことから逃げ続けた末路がいまだ。
こんな所に居たくない。
真っ正直に言葉にすれば針の穴が開くほどに『気に入らない相手』として『使えない』と溜まった不満をぶつけられるだろう。八つ当たりもいいところだけれど、それを認識出来るだけの能力を持つ人間がこの職場に残っているのだろうか。

温くなった炭酸は表面にびっしりと水滴をつけて
触れれば手のひらにびっしょりと水を垂らした。

泣くことが出来ずに言葉を紡ぐことも忘れて
ただただ黙る事でしか抵抗できない。

かつて冷たいジュースだったなにかは、
不満で炭酸だけが抜け落ちて、ぬるい空気にまとわり付かれていずれ堰が切れたように泣き出しては飲めない砂糖水だけが残るんだ。




滑稽だ。
まるで私じゃないか。

8/4/2025, 12:05:51 PM