作家志望の高校生

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空は晴れ渡り、少し色付き始めた木々の葉は、それでもまだ青さを保っている。視界に広がった、まるで宇宙から見下ろした地球そのもののような色。雀の鳴き声が飛び交う中、この頃下がってきた気温を感じさせる秋風に吹かれながら、僕は玄関に鍵をかけた。行き先は駅だ。そんなに本数の多い路線ではないから、少し早めに家を出る。
無事電車に乗り、目当ての駅で降りる。昨日まで降り続いていた雨が止んだらしい、なんだか空気もいつもより澄んでいるような気がした。未だ乾かない水溜まりに空が反射して、道の向こうの海と繋がって見える。自分まで海の中心にいるような一面に広がった青。そのせいで深海へ沈んでいくような錯覚を覚えながら、僕は見慣れた田舎道を進んでいった。気分は晴れ晴れとしていて、心なしか体も軽い気がする。普段より少しだけ速く、目の前の坂を駆け下りた。
自分の真横に広がる山々の木が、今日はやけに喧しい。風に吹かれて、ざあざあと揺らぐ音がした。視界に広がっていた緑色の草むらは、段々と田園風景へと変化していく。
頭を垂れ、軽やかな鈴の音のような音を立てて稲穂が揺らめいている。黄金色に染まった田んぼは、先ほどまでの晩夏の残る風景を塗り替えて秋の訪れを僕に報せた。
この辺りは気温が下がるのも早かったようで、もうすっかり秋景色だ。黄色に色付いた銀杏は、今朝僕が見たものよりずっと鮮やかだった。小さな子どもが2人並んだデザインが描かれた標識も、古びてしまって銀杏の黄色にかき消されてしまいそうだ。あまりにも綺麗で、僕は歩く速度を少し落として見惚れてしまった。
ふと、桜の大木が目に入る。そろそろ目当ての場所に着く合図だ。桜の葉は紅葉して真っ赤になっていた。葉が散る寸前のこの色は、儚くも美しい桜の花を思わせる。丁度春にこの桜を一緒に見た幼馴染に久しぶりに会えるのだ。僕の気分は上々で、桜の葉と同じくらい、僕の頬も紅潮していた。
ちらちらと、視界に人工的な赤色が混じる。至る所に、真っ赤なカラーコーンが置かれていた。普段はあまり見かけないような、新品に近いそれは、周囲の自然らしい少しくすんだ色とは違って、本能が危険だと訴えるような色をしていた。
目当ての場所、幼馴染のアイツの家。普段ならば、植えられた松の木の落ち着いた緑色が迎えてくれる玄関。しかし、今日はいつもと違っていた。いつの間にか切ってしまったらしい、松の木は見当たらない。代わりに目に飛び込んできたのは、立ち入り禁止の黄色いテープと、赤く明滅するパトライト。頭が真っ白になった。
開いたドアの隙間から、アイツが僕を見ていた。見開かれた目に生気は無くて、その目は濁りきっている。見慣れた玄関には、何か、真っ赤な液体が広がっていた。
その赤に縫い付けられたように、僕の身体は動かなくなる。顔から血の気が引いて、顔が真っ青になるのを、どこか客観的に、ぼんやりと感じていた。

テーマ:信号

9/6/2025, 3:07:58 AM