私は自分の死に際が分かっていた。
定年まで後2年ほどになった時から、右胸に違和感があることには気付いていた。
乳癌自体がステージIV。リンパと脳にも転移していた。
主治医には余命を伸ばす為の手術を勧められたが、断った。
身体が動くうちに、出来る限りひとり暮らしの部屋の物は全て捨て、サブスクやクレジットカードも解約し、口座、保険証券や年金の類はデータにして息子には分かる暗証番号をかけメールで送っておいた。
1人で息子を育て、父、妹、母の順に家族を看取り、そしてとうとう自分の番だった。
幸いにも最期は妹と同じ脳腫瘍によって亡くなる事が出来る。意識が無くなる前に、息子に伝えなければならない事は全て伝えられた。私は心から安堵した。
私の最期も、妹と同じ病院の緩和ケアを希望した。
痛みが増強したり、肺に水が溜まり呼吸が出来なくなってくる辺りで、オピオイド(麻薬性鎮痛剤)が使用される。
私は死期を悟る。
生涯のうち、たったひとりだけ心から愛した人がいた。
その人の今を知る由も無いが。
輪廻転生が本当にあるなら、次はもっと普通に会いたい、そう願いながら眼を瞑った。
題:未来
6/17/2024, 6:39:59 PM