「ひなまつり」
うぶな乙女の照れた頬のような梅が咲いている。
幼い頃は梅の木なのに梅干しの匂いがしないのを不思議に思っていたものだ。
逆に甘くて官能的な香りと梅干しが結び付かなくて、この私の予想を裏切ったとして好きな花ではなかった。桜の花の方が人気だし綺麗だし。
大人になってから、春の訪れを知らせてくれる香りが梅の花なのではないかと気付いた。
立派に花びらを伸ばして堂々と咲く桜と比べて、しおしおな梅の花弁はむしろ若々しさを感じる。
桜じゃなくて梅の花みたいな女の子になるべきだったなあ……。
量産型の桜ではなく、甘美な香りを発していながら顔を必死に隠すような梅の花に。
きっと世間的に好かれるのはそういう女の子なのだ。
スマホには結婚式のご招待サイトが開かれている。
今の時代は紙の招待状ではなくサイトを使って出席のアンケートを取るらしい。合理的で効率的だ。情緒はないけど。
「ちょっと手伝って」
押し入れから母親のくぐもった声がした。
「なにー?」
スマホの画面を下に向けて母親に声をかける。
押し入れに頭を突っ込んで尻をこちらに向けている姿は滑稽だ。
「おひなさま出すの手伝って」
「え?いいよ。もう何歳だと思ってるの」
母親は少し照れたように言った。
「娘が生きてる限りよ」
そんな伝統守るタイプだったっけ?と子供な私は不思議に思った。
3/3/2026, 12:17:58 PM