詩歌 凪

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 何気ない振り

 昏い世界の片隅で、やけに大粒の雨が降りしきる廃工場の中、少年がひとり立っていた。
 少年はこれから世界を殺すのだ。
 彼はヒーローだった。十五歳の誕生日、少年は世界を壊して作り変えるヒーローになるはずだった。全世界の人々が少年の誕生を待ち望み、成長を祝い、大きくて小さな箱庭を造り上げてきた。
 その窮屈な箱は、外界から隔絶された少年の世界の全てだったのに、彼の使命は、何千何万の歴史を抱える本物の“世界”を壊すことなのだ。少年はずっと外の世界が見たかった。きっと壊す時には見られるはずだと思っていた。
 そして、少年は昨日世界中が待ちわびたはずの十五歳の誕生日を迎えた。
 そこで少年を待っていたのは、歓声でも拍手喝采でも世界を作り変えるためのアイテムでもなかった。
 その日、少年はこれまで自分を育ててきた大人達の手によって、ヒーロー失格の宣言と共に箱庭の外へ放り出された。
「……何が、悪かったんだろ」
 焦がれていた外の世界はずっと味気なくて、雨は少年の頬を冷たく濡らしていく。
 その時、ズドン、と−−−身体で感じた衝撃をそのまま音にしたみたいな、おかしな感覚がした。
 −−−−−−カタストロフ。世界の破滅と消滅の足音だ。
 これまで、それに最も近い位置にいた少年には不思議とすぐに分かった。終わりが来る。少年が何もしなくても、どうやら世界は勝手に終焉を迎えるらしかった。
 けれどきっと、世界が生まれ変わることはない。
 雨に濡れる少年の背後で世界がにやにや笑っていた。どうでもいい、そんなこと。少年の命と人生にに意味はなかったのだから。
 少年は知らん顔で終末を迎える世界を眺める。
 足音はそこらを歩き回って、聞きたくないと少年は耳を塞ぐ。一歩ずつ近づくカタストロフの音は、あまりに寂しかった。

3/30/2024, 3:57:46 PM