いず子。

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湿った空気が重い。酸素が足りなくて頭がくらくらする。重いようで浮きそうで、ここが夢かと錯覚してしまいそうだ。


だばだばと走る。運動は苦手だから、変な走り方になっていると思う。でも今はそんなことを考えている場合じゃない。


いくら全力で走っても、一旦止まって深呼吸をしようとすると、すぐ後ろでコツコツとヒールがアスファルトを打つ音がする。だから走り続ける。


ひゅーひゅーとした呼吸音が私の口からする。今すごく
ブスな顔になってるだろうな。ずっと走り続けたせいで息ができず、咳が止まらない。


立ち止まる。


「もう、やめてよ」


掠れて上ずった声で、追いかけてくる何かに懇願してみる。返事をするように後ろでヒールが〝コツ、コツ、コツ〟と三回鳴る。「い、や、だ」とでも言っているのだろうか。


涙が出る。それでも、ガクガクしっぱなしで今にもその場に崩れ落ちそうな足を一歩踏み出し、走り続ける。右手に、煤けた小箱を握りしめて。




〈ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。〉
2023/5.30
No.6




詩というより小説。

heelって悪役って意味もあるらしいですね。書いて投稿したあとから、ヒールって他に意味があった気がして調べて知った。偶然。ヒールは適当に登場させたんですけど、後付けで意味深になった。

5/30/2023, 10:15:26 AM