Gordon

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「時間よ止まれ」

***

「止まれっ!!!」
 しかしその叫び虚しく、無情にも球は狙いの一つ先のポケットに落ちた。ルーレットで10万円負けが決まった瞬間だった。
「祐樹ほんとツイてねーな」
隣で笑いながら和彦が言う。和彦は3万勝っているらしく、機嫌が良かった。
「俺らトータルでみたら負けてんだぞ?これじゃ飯にもありつけないぞ」
「なんでトータルでみてんだよ。自分で負けた分は自分で取り返せよ」
「和彦って案外冷たいよな」
「時間を止められたらな、ポーカーもルーレットも百戦百勝なのにな」
「馬鹿、なんで俺らだけ動けるんだよ。真面目に取り戻す術を考えてくれ」
そう話しながら俺は既に次の賭けのことを考えていた。

***

 結局、負けを取り戻そうと闇雲になった結果、俺はさらに5万負け、和彦も欲を出したのが運の尽き、終わってみれば3万の負けになっていた。2人して肩を落として店を後にしたが、バカをするのは2人の常だった。1週間もすれば笑い話になっていた。
 しかし和彦はもういない。突然、「俺は幸せを見つけた。お前も、お前自身の幸せを探してくれ」とメールが来て、それから連絡がつかなくなったのだ。前触れは何もなかった。いや、俺が気づいてなかっただけなのかもしれない。彼女でもできたんだろうか。あるいは、もともと彼女がいて婚約したんだろうか。よく思い返してみると、俺には和彦の知らないことがたくさんあった。
「あの頃に戻りてえな」
カジノの勝ち負けなんかどうでもいい。もし今の自分があの時に戻れるなら、和彦の言ったことを肯定していたかもしれない。
「ああ、時間、止めてぇな」
「俺、あの頃の友情を取り戻してぇよ」
そっと目を閉じると、ロープの強度を確認し、首にかけていた手を離した。そして、そうしなければならない衝動に駆られて少し背筋を伸ばした後、乗っていた椅子を勢いよく蹴り倒した。
「俺、幸せを見つけられなかったよ」
心の中でそう言いながら、意識が遠のくのを感じた。


2/16/2025, 1:10:45 PM