ところで、この蛇口から出てくる透明な水はどこからきているのだろうか。
金に輝く髪に透き通る白い肌、きらきらと光るような水色の瞳で少女、アリス・ケリーは首を傾げた。
アリスはこの国レギスタの出身ではない。もっと言えばこの世界ティルナノーグの人間でもなく、元は日本で兼業主婦をしていた織野彩花の魂がジェシカ・ケリーの体を借りてアリスを名乗っている。
(この世界の常識が未だに飲み込めないのよね)
アリスは首を傾げたまま台所のシンクの前で考えた。
「ねえ、今更なんだけどこの水って飲んでも大丈夫?」
なにもないところにアリスが話しかけるとキラキラと周囲がひかり風が吹く。シンクの中の桶の水が揺れてコンロの奥底が瞬いた。
「だいじょぶ!」
高い声で応えたのは水の精霊だった。桶の水が波立ち、波の間からキラキラと精霊が飛び立つ。
透き通った水をドレスのように纏った水の精霊はアリスの目の前でひらひらと踊る。
「そもそもこの水ってどこからきているの?」
「あっちの、かわ」
「あっちの川……」
(水道施設? 浄化施設的なものがある?)
「いく?」
「行ってみましょう」
とりあえずアリスはあっちの川とやらに行ってみることにした。
アリスが精霊と共に外へ出ると、外は明るく晴れていて太陽の光が眩しい。ひらひらと飛ぶ精霊の後を付いて行くとすぐに川に行き当たった。
「ここからわけて、みずをながしてるの」
精霊が指す方をアリスが覗くと川の先に水門が見えた。水門の周りにはたくさんの精霊が踊っていて、水の流れを動かしている。
「なるほど。浄化やゴミをふるいわけたりとかも、どこかでしている?」
「それはひかりのせいれいと、かぜとみずと……なんにんかでしてる」
(思ったよりちゃんとしてるのね)
アリスは安心して戻ることにする。日本で生まれ育つと清潔な水が手に入ることが当たり前のように感じるものの、それはたぶん世界的にも、異世界であるティルナノーグ的にも当たり前ではない。
「ねえ、あるじ」
「なあに」
「なんか、おもしろいはなしして」
「んー、じゃあ水つながりでグリム童話の命の水とかどうかしら」
いつの間にかアリスの周りには水以外にもたくさんの精霊が集まって、彼女の話を聞いていた。
5/22/2023, 5:29:14 AM