満点の星空を眺めながら、横で楽しそうに語る彼女の声に耳を傾ける。星に向かう細い指を視線で辿るがどれを指しているのかはわからない。正直、俺は星座なんてさっぱりわからないのだ。夏の大三角形すらわからないので、なんとなくそのときにしっくりくる星を三つ適当に繋げている。
それにしても偶然って凄いよね。と彼女が笑いかける。広大な自然の姿を前にすると、偶然の重なりが運命のようにすら思えるのだとか。
中学の頃に同じクラスだった彼女と大学で再会し、たまたま授業が全て被っていて、ある日映画を見に行ったらばったり会って、ふたりともキャンプに興味があることも判明した。これが運命ならば、このまま結ばれて幸せになるのが世の常というものだろう。
まぁ、そんな運命なんて存在しないんだけれど。
中学から好きだった彼女と同じ大学に進学して、彼女が取る予定だった授業も観に行こうとしていた映画も、キャンプが気になっていたことも全て調べがついていた。ドラマ化待ったナシのラブストーリーを演出するために偶然を装って意識を惹き付けることは、見事成功したと言えるだろう。
ロマンを抱く彼女は、勝手に俺が打った点すら繋げて名前とイメージを付けてくれる。期待通りだった。星座よりずっといい加減な繋ぎ方をしていても納得してしまうのだ。彼女はなんて愚かで可愛いのだろう。
『星空』
7/5/2023, 5:43:01 PM