Saco

Open App

天国と地獄

此処は、あの世 死んだ人が地獄行きか
天国行きか決められる閻魔様の庁舎から
少し外れた道に二つの温泉宿屋がありました。

右側の宿屋の呼び込みが声を張り上げて
言いました。

「まるで天にも昇った様な心地になる
天国風呂だよ 生者の内に昇天されて
死者になっても夢心地の快楽が得られる
昇天風呂なんて早々無いよ 寄ってきな
寄ってきな」とそれに負けじとつられる
様に左側の宿屋の呼び込みも声を張り上げます。

「地獄の釜茹で地獄なんて目じゃ無い
家の地獄の釜茹で風呂は熱いの何のって
これに一度入れば病みつきになって中毒に
なっちゃうよ 地獄の釜茹で地獄なんて
温く感じる位さ さあ命知らずなスリルを
味わいたい死者は家の宿の温泉に寄っといで!」

「こらあ~っこんな所で商売して
客を呼び込むなあ~! 
閻魔様の沙汰がある庁舎に行く列の者が
崩れるだろう~」


「お役人様勘弁して下さい あっしら
生きていた頃から商人だったもので
その性が抜けないんでさ~」

「地獄の沙汰も金次第と言うじゃありませんか地獄に行くにしろ天国に行くにしろ
一時の欲を此処で洗い流せれば死者にも
覚悟が生まれると思うんです
誰だって天国行きを望んでいるのは
百も承知 好き好んで地獄に行く奴は
稀でさあ~」

「でもこうやって娯楽にしてしまえば
地獄行きが決まっても心に余裕が
生まれるってもんでさあ~」

「一応地獄行きが決まった死者にも
天国を味わって貰おうと
天国風呂も作りましたさあ~」と二人の
呼び込みはニコニコと揉み手をしながら
お役人に言う。

お役人はため息を吐き呆れ半分苦笑半分で
二人に言い聞かす。

「ちゃんと許可は取っているのか?」
「それはもちろん」二人は揃って頷く
「分かった許そう 但し声を掛けて
呼び込んで良いのは天国行きか地獄行きか
沙汰が決まった死者だけだ分かったな!」
「承知しやした!」二人はにこにこと
同時に頷いたのだった。

5/28/2024, 4:32:29 AM