泡になりたい
「だってさー、あの人が飲むビールの泡になりたいって言ったら引くっしょ?」
「え、引く。」
「そう。だから素直な気持ちは言えねーの。」
「それよりさ、もっとマイルドなやつあんじゃん。普通に付き合いたいとか、好きですとかさ。そういうのでいいじゃん。」
友人はそう言ってあの人が好きなメーカーのビールに口をつけた。付き合いたい、好き…うーん。確かに、アキネーターに「その人と付き合いたいですか」と質問されたら、迷いつつも「どちらかといえばはい」を押すかもしれない。好きはもちろん好き、なんなら大好きだって答えられるけど…それがなんかそういう意味の好きなのかと聞かれると首を傾げる。なんだかなーと思いつつ、炭酸さえ飲めない自分は抹茶オレを味わった。
「うーん、自分はあの人が食べる抹茶アイスになりたいかな。」
「…なんで?」
「だってさー。お酒得意じゃないのにわざわざ一緒に居酒屋来てくれるってだけで嬉しいのにさ、抹茶アイス食べてる時が一番幸せそうにしててかわいいから。」
「え、あんたは甘いの好きじゃなかったでしょ。」
「うん。甘いの苦手。でもあの人が喜んでくれるんならすっごい甘いやつになりたいかな。」
「はいはい。そうですか。」
自分から何にでもなれるならどうする?なんて聞いてきたくせに興味なさげにビールに口をつけるからこっちも負けじとビールを飲む。話題はいつも通りあの人のこと。酔うと9割は惚気てしまうのだが、呆れながらも聞いてくれる友人に感謝だ。惚気、なんて言っても実際には付き合っていない。だって、付き合ってしまえば、否が応でも相手を自分の欲望の対象に見てしまう気がするから。自分はそういうんじゃなくて、もっと、こう、なんかただ一緒にいたいだけで…みたいな良いことを言いたかったのにお酒で頭が回らず結局違う話に頭が持ってかれた。
本当何でもいいから付き合えよ。めんどくせえわ。なんで間に一回自分挟むの?あとほとんどおんなじこと思ってんだから素直にその気持ちを伝え合えよ。勝手に泡にでもアイスにでもなっとけ。
8/6/2025, 2:04:01 PM