茶園

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短い小説 『美しい』

 万里は町行く人々を眺めていた。
 人々の顔を見るたびに思う。この人はなんでこんな面白い顔をしているのだろうと。
 やけにふさふさした髪。ツルツルな頭。やけに濃い髭。やけに寄った目。広いおでこ。たらこ唇、etc…。
 だから面白がって勝手に占ったりしていた。この人は肌が白いからインドア派だなとか、髭が長いから自信家なのかなとか。

 だが、そんな中で美しいとしか言えない人を一度だけお目にかかったことがある。何と言うか、顔のパーツが全て美形で、尚且つ整った組み合わせなのだ。
 その人を見た時、一瞬だけ目が合った。だが、向こうはこちらのことなぞ気にもかけていないし、見てもいないだろう。
 こんな辺鄙な町に来るということは、この町に用があるということだ。もしや、誰かの恋人か?すると、やがて結婚するのだろうか?それならいつでも会えるな。と、にやにやと笑っていた。

 そう笑っていた時のことを思い出す。夢のひとときは一瞬だった。その人はそれ以来一度もこの町に来なかった。
 なんだ、恋人に会いに来たのではないのか。
 もし恋人がいなかったら、ナンパしとけば良かったと、今も窓の外の遠くを見つめた。

1/16/2023, 3:20:55 PM