事務所の洗面所
明り採り用の小窓があった
その窓枠に置いてあったグラス
黒いガラスのコップ
誰かが置き忘れていったのか、うっすら埃をかぶっているカットグラス
私は一階にある事務所に行くたび、それがあの場所にあるのをいつも確かめていた
秋が来て、冬に移ったと感じた時、必ずこのグラスが浮かんでくる
「あ、冬か」
「ついに冬が来たなあ」
「お、今年は少し遅かった?」
こうやって私は冬に入る
風が吹く音
乾いた空に浮かぶ雲の形
乾かない洗濯物
暖かい家の匂い
寒ーい!と叫びながら自転車に乗る制服の女の子たち
下を向いて足早に歩く若い男の人、
黒いマフラーの中で光る白いイヤフォン
まるで誰かを驚かせるように不意に吹きつける強風
それに煽られて鳴る木々の葉音
ギシギシ揺れる車庫の屋根
これらの景色はみんな、あの場所から見ているように思う
あの黒いガラスのコップの中
黒くて透明な、
より輝くようカットが施された
グラス
美しく透き通る黒いグラス
その内側から見る
冬の景色
11/30/2023, 5:56:13 AM