ドルニエ

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 深く美しい宵闇から、月のない晩を経て、また空に光が差しこみ始める前、夜の最後の抗いのあたりで、僕はようやく眠ることを許される。
 それまでのつまらない思索の小路はいつだって、何についてだって、胸が潰されそうになる。心臓を掴まれるように。胸部を帯でゆるゆると、しかし冷酷に締めつけを増してゆくように。大昔の失敗や敗北、不見識。そしてもう避けられない未来の困窮と、手を変え品を変え、僕の心をを捕らえる。自身を罰するために、この世に出てきたのではないかと思わせるほどに。
 そのくせ僕はそこから離れることはできそうになかった。薬のように、酒のように、毒親のように、僕はそれを捨てられずにいたのだ。この果てしない自罰的な時間から、僕は離れられそうにない。青年時代からの癖になってしまっている。だから昼間に集中力など残っていない。発揮できる機知もない。仕事でもプライベートでもへまってばかりだ。
 自己愛と自己否定の間をさまよいながら、僕はまた宵を迎える。僕の上に覆いかぶさり、それは僕の心を掴み、この世のものとは思えぬぞわぞわした声で、深い深い小路へと僕を連れ去るのだ。
 僕はもう自力ではこの沼から這いあがれそうにない。だから、誰か。僕を、僕を、こいつを裏切らせてくれ。縛って、殴って、首を絞めて、切り刻んで、燃やして、僕をあちらへ引きずりこんでくれ。頼む。頼む。頼む。
 もう、僕は――ソレなしには。

「――ってあらすじなんだけど、どう?」
「うん、没。よっぽどうまく書かないといけないし、書けても売れないよ。君、そこまでの技量ないし」
「そっかぁ。そうだなぁ」
「ま、また面白い話を考えついたら呼んでよ。そしたら一緒に考えよう。コーヒー代くらいならなんとかなるから」

9/13/2023, 2:04:03 PM