『ひらり』
君がそこに駆けつけたとき、血だらけの死体を前に茫然としているその人がいた。
唇を真一文字に引き結び、瞬きもせず、瞳孔が開いた目を君へ向けた。
「殺してしまった」
ぽつりと零された言葉に君の頭は回転を始め、すぐさまそこで何が起こったのかを理解した。
見つめ合っているのに、焦点が重なり合わない。
青ざめてはいるが、後悔の念は見受けられない。
動転も自失もしていない。
君は何度も忠告していた。
妻がありながら他の女に手を出すような男はろくな奴ではない、きっとそのうち大変なことになる、と。
それに返ってくるのは、曖昧な笑みだけだったが。
君は深く息を吐き、ぐるりと周囲を見回した。
この現場をよく記憶しておかなければ。
再び見つめ合うと、今度は確かに視線があった。
すると二人の間にひらり、と1枚の花弁が舞った。
まるでスローモーションのようにゆっくりと、ひらり、ひらり。
君には三つの選択肢があったが、その花弁が死体の頭に落ちたとき、他の二つの選択肢を捨てた。
この後の行動は、君の口から聞かせてほしい。
3/4/2025, 8:40:47 AM