手のひらの贈り物
見事な駒捌きだった。
「……負けました」
頭を下げると、対局相手の男の子は肩の力を抜いた。そわそわと複雑な表情を浮かべる。
「桂馬跳ねた手がすごかったねぇ」
ぱっと彼の目が輝く。
「じ、自分でも、上手く指せた気がして…まして…」
「ほんとに! 振り飛車党って感じの捌きだった」
「その…えっと…」
しどろもどろの男の子は話すのが苦手らしかった。けれど、もっと話したいのだという気持ちは言葉にしなくてもわかった。
ゆっくりとした感想戦が始まった。勝負だけではなく、振り飛車が好きなこと、受験が近いこと、今日を最後にしばらく道場には来ないことなどを聞いた。
「まもなく営業終了となります」
帰り際、男の子がやってきてそれを差し出した。小さな駒のキーホルダーだった。
その意味に気づいたのは家に着いたころだった。
「また一緒に将棋できるかな」
手のひらの贈り物を眺めながら思う。名前すら知らない男の子。だけど、いつかまた会える気がした。
だってあんなに楽しい勝負ができたんだから。
※半分くらい実話です笑 元気にしてるかなぁ。
12/19/2025, 3:53:15 PM