夢で見た話

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向き合っていた書面から顔を上げると、眉間が皺を刻み目の疲れを訴える。
夜が本領の身とは言え、最近はすっかり昼の人となった。

数日前に行われた月見の宴を思い出す。
秋の訪れを感じさせる落ち着いた設えを手前に、煌煌と照り輝く満月。その姿は、十分に日を浴びて実った果実にも似て、今にも果汁が滴り落ちるかと見えたものだ。
しかし酒が入れば常ならむ、と言おうか。
次第に、酔いにまかせた歌声と合いの手、笑い声の轟く飲み騒ぎとなっていった。

そんな様子を、どうかお笑いください、としたためた所だったのだ。

首を数回傾けて解すと、夜風にあたりながら目を休めようと部屋を出る。
月は既に傾き、星が輝いていた。
貴女は眠っているだろう、と、不意に意識が語りかける。
自分の文に間を空けず、律儀に返事をくれる貴女は。

思えばあの日も、同じ人を想っていた。
中秋の名月ともなれば、きっと彼女も見上げていただろう。
けれど。
その健やかな眠りを守る星、瞳と髪に照り映える陽。
その下に同じく自分も居る事を思えば、全ては等しく特別な事象。
そこまで思いを巡らせて、頭を一つ振り考えるのを止めた。
文に込めるべき思いを、空へ馳せていても意味がない。

一度、強く目を閉じ、また開いた。
星は変わらず輝いている。
文机の上のものを書き上げて、朝には馬借へ託さなければ。
貴女と同じ夜の中で、少しでも長く眠りたい。


【星座】

10/5/2023, 2:07:37 PM