Frieden

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「空が泣く」

引っ越しの準備とやらでマッドサイエンティストはちびっこをひとりで置いていって数日。甘えん坊がひとり増えたくらいで、だいたいいつもと変わらない暮らしを送っている。

「ね!ね!ニンゲンしゃん!」「ん?」
「ずーっとふちぎなの!」「何が?」「あれ!」
「だっこちて!」「はいはい。」

抱っこを求めたと思ったら窓まで連れて行けと。
ちっさいこどもはよくわからん。

「何?何が気になるんだ?」「あれ!あおいの!」
「青いの?どこも青くないけど?」「あれ!あーれー!」
「もしかして……空か?」「うえのほう、あおいの!」

「しょら ていうのねー!おべんきょなのー!」
「今は太陽っていう明るい星が出ているから明るいけど、太陽が沈むと暗くなって、それを夜って言うんだ。」

「え?ちゃんとたいよー?もどってくる?」
「寝てる間に戻ってくるよ。」
「へー!よる じゃないじかんもあるのー?」

「あー、うん。太陽が昇って間もない時間を朝、太陽が高いところにいる時は昼、沈みそうな時間を夕方って言うんだ。朝早くや夕方は空が綺麗なオレンジ色になるんだ。」

「みたいみたーい!きれーなの?」「うん、とっても綺麗だよ。」「今日は天気が良さそうだから、きっと夕焼けが見られると思う。」「たのちみー!」

「それじゃあ、夕方になるまでこの国の文字を勉強しようか。」
「おべんきょ!がんばるのー!」
健気なやつだなぁ、そう思って自分はひらがなを教えた。

ひらがなを教えているうちに夕方になった。
昼間の晴天とは打って変わって厚い雲がこの町を覆っている。
……今日は夕焼けが見られそうにない。

「あれー?おしょら、えんえんなのー。おとーと、ボク、しんぱいなのー?」「おしょら、かわいしょうなの。」

不安そうな目でこちらを見る。じ、自分には何もできないぞ?
空が泣く、か。小さい子は不思議なこと言うなー。

「あー、空は泣いてるんじゃないよ。ただ雨が降ってるだけさ。雨のおかげで植物──お花や木が元気になるんだ。運が良ければ虹も見られるかもね。」

「にじー?にじ ってなーに?」
「雨と太陽の光が作る七色の橋、みたいなものかな?」
「ボク、にじ みたーい!」「そのうち見られるよ。」

「んー……でも今日は難しそうだな。」
「ボク、つぎのあめ、たのちみー!」
「そうだな。自分も楽しみだよ。」

「にじ、みんなでいっちょにみよーね?」
「そうだな、またいつか。」

そう言って自分たちは天からの恵みをガラス越しに見つめた。

「前回までのあらすじ」(番外編)───────────────

ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!!!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!!!

調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!!!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!!!

それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!!!悪気の有無はともかく、これ以上の被害を出さないためにもそうせざるを得なかったワケだ!!!

……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにしたら、驚くべきことに!!!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚!!!さらに!!!アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかったのだ!!!

そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!!!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!!!

……とりあえずなんとかなったが!!!ちょっと色々と大ダメージを喰らったよ!!!まず!!!ボクの右腕が吹き飛んだ!!!それはいいんだが!!!ニンゲンくんに怪我を負わせてしまったうえ!!!きょうだいは「倫理」を忘れてしまっていることからかなりのデータが削除されていることもわかった!!!

それから……ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。いつかこの日が来るとわかっていたし、その覚悟もできたつもりでいたよ。でも、その時にようやく分かった。キミにボクを気味悪がるような、拒絶するような、そんな目で見られたら、覚悟なんて全然できていなかったんだ、ってね。

もうキミに会えるのは、きょうだいが犯した罪の裁判の時が最後かもしれないね。この機械の体じゃ、機械の心じゃ、キミはもうボクを信じてくれないような気がして。

どれだけキミを、キミの星を、キミの宇宙を大切に思ったところで、もうこの思いは届かない。でも、いいんだ。ボクは誰にどう思われようと、すべきこととしたいことをするだけ。ただそれだけさ。

……ついに裁判の時を迎え、ボク達はなんとか勝利を収めた!

それから。
ボク達はニンゲンくんに、そばにいていいって言って貰えたよ!
まあ一方的にお願いしただけとはいえ!!!
とても嬉しいことだね!!!

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9/17/2024, 3:51:07 AM